名古屋高等裁判所 平成9年(行コ)9号 判決 1997年9月30日
三重県四日市市平津新町二六〇番地二五九
控訴人(一審原告)
清水光男
右訴訟代理人弁護士
大友要助
三重県四日市市西浦二丁目二番八号
被控訴人(一審被告)四日市税務署長
坂本治己
右指定代理人
鈴木拓児
同
安達幸男
同
戸苅敏
同
相良修
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成三年七月五日付けでなした、控訴人の昭和六三年分所得税額等の決定(納付すべき税額九万五四〇〇円)及び平成二年分所得税額等の決定(納付すべき税額四一三九万六三〇〇円)を、いずれも取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二事案の概要
事案の概要(争いのない事実、争点、争点に対する当事者の主張等)は、次のとおり、原判決に付加訂正をし、当審における控訴人の主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄第二記載のとおりであるから、これをここに引用する。
一 原判決の訂正等
1 原判決二枚目表九行目冒頭から同二枚目裏二行目までを次のとおり改める。
「 本件は、被控訴人が控訴人に対し、<1>昭和六三年分の控訴人の所得につき貸金に対する利息金の雑所得が存在するとして、<2>平成二年分の控訴人の所得につき不動産売買による譲渡所得が存在するとして、それぞれ所得税額等の決定をなしたところ、控訴人は右<1>、<2>の所得はいずれも存在しないから、右各所得税額の決定処分は違法であるとして、その取消を求めた事案である。原審は、控訴人の請求を全部棄却したため、控訴人が本件控訴に及んだ。」
2 同二枚目裏四行目「昭和六三年分」の次に「の控訴人の所得」を、同六行目「無申告加算税」の次に、「一万三五〇〇円」を、同「平成二年分」の次に「の控訴人の所得」を、それぞれ加える。
3 同三枚目表一行目「雑所得」の次に「(貸付金利息)」を、同六行目「被告主張額計算表」の次に「(昭和六三年分及び平成二年分)」を加える。
4 同三枚目表九行目、同三枚目裏八行目及び同一〇行目の「称して、」の次に、いずれも「日本開発企業の名義で、」を加える。
5 同四枚目表一〇行目「頼まれ」の次に「、これに応じ」を、同四枚目裏一一行目「売買契約書」の次に「(乙六ないし乙八)」を、「報酬支払約定書」の次に「(乙一一の一ないし三)」を、「代金領収証」の次に「(乙九の一、二)」を、それぞれ加える。
6 同六枚目表二行目から三行目にかけ「昭和六三年度分については」とあるのを「昭和六三年分の所得の関係では、」と、同三行目「平成二年度分については」とあるのは「平成二年分の所得の関係では、」と改める。
二 当審における控訴人の主張
1 昭和六三年分の雑所得について
原審主張のとおり、控訴人は、暴力団組長である今村の依頼により、日本開発企業の当座預金口座を、控訴人とは全く面識のない金田なる人物の事業資金の入金及び出金に利用させたに過ぎず、日本開発企業及び控訴人には一円の所得もない。また、乙一(委任状)及び乙二(領収証)は金田によって虚偽作成されたものである。
金田の名古屋国税局に対する聴取書(乙一五)には、本件の貸金の元金を返済した平成元年六月三〇日、控訴人が貸金の返済分一億二三八二万円と今池商業センタービルの立退料との合計約四億七〇〇〇万円を現金で受け取り、これを持ち帰った旨の記載があるが、一般に、このような大金を現金で返済したうえ、そのまま持ち帰ることは絶対にないから、右乙一五は信用できない。
2 平成二年分の短期譲渡所得について
控訴人は、今村から、本件土地建物の売買につき国土庁の許可を得るため日本開発企業の名を貸してくれるよう依頼され、これに応じたに過ぎず、平成元年一二月二七日、今村の配下の吉戸佳雄から、現金五〇〇〇万円を銀行の保証小切手八通に振り替えて欲しいとの依頼を受けて、その手続をしたところ、右小切手八通が吉戸から本件土地建物の売主である水野敬二らに対し、手付金として交付された。控訴人及び日本開発企業は、右の程度の関与をしたに過ぎず、何らの所得もない。
乙六ないし乙八の各売買契約書及び乙一一の一ないし三の各報酬額支払約定書は、仲介者である中部積和不動産株式会社の社員である金子明が課税を免れる手段として、勝手に日本開発企業の名を冒用したものである。
本件土地建物は、売買により日本開発企業名義で買い受けられ、その翌日にアークアーバン株式会社売り渡されているところ、このようなことは一般土地取引ではあり得ない。
第三証拠
証拠関係では、原審の証拠目録に記載されたとおりであるから、これを引用する。
第四当裁判所の判断
当裁判所も、昭和六三年分の雑所得について、日本開発企業の名義で行われた貸金における実際の貸主が控訴人であり、したがって、利息金を金田から受領したのも控訴人であると認めるのが相当であり、平成二年分の短期譲渡所得について、日本開発企業の名義で行われた本件土地建物の売買(買受と売渡)における実際の当事者は控訴人であると認めるのが相当であるから、被控訴人が行った昭和六三年分及び平成二年分の所得税額等の決定に違法はなく、控訴人の本訴請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり、原判決に付加訂正をし、当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄第三記載のとおりであるから、これをここに引用する。
一 原判決の訂正等
1 原判決六枚目表一一行目「乙三・四の各一・二」の次に「乙五の一ないし一三」を加え、同六枚目裏三行目から六行目までを次のとおり改める。
「 日本開発企業は、昭和四一年三月三一日、株式会社日本経営教育普及会として設立された会社で、その後、商号変更、目的変更を重ね、商号については昭和四七年一二月以降に現在の商号となり、また、目的については、昭和五四年一月に以前の「企業診断指導に関する事業」等から現在の「各種鉄工機械部品製造、販売、各種建築資材の製造、販売」等に変更された。同社は、昭和六〇年頃以降は休業状態であるが、既にそれ以前から法人税の申告が全くなく、営業活動をした形跡がない。控訴人は、同社の設立にも参画したが、昭和四七年以降に代表取締役に就任した服部寿男は控訴人の甥であり、同人が昭和六三年一二月一五日に死亡した後に代表取締役になった小林一郎は控訴人の娘婿であるから、同社は事実上、控訴人が管理・支配していたものというべきで、控訴人の事務所である「清水万太郎事務所」、控訴人が管理支配している他の「国際工業株式会社」、「宗教法人神楽園」等の法人及び任意団体である「国際政経調査会」等も事務所は日本開発企業と同一場所であり、控訴人は右事務所内の金庫に、日本開発企業の社印(記名印)及び代表者印を保管していた。」
2 同六枚目裏八行目「知り合った。」の次に「控訴人は、当時、右ビル内に事務所を構えていた。」を、同九行目「言い出したため、」の次に「同ビルの再開発事業を進めていた」を、同一〇行目「困っていたところ、」の次に「同ビルの再開発事業が進捗せず他へ売却されてしまうと、同ビルの控訴人の事務所に対する高額の立退料の支払が受けられなくなる関係にあった」を、それぞれ加える。
3 同七枚目表四行目「称して、」の次に「日本開発企業名義で」を、同五行目「るとともに、」を「、平成元年六月三〇日に同社名義で、」に改める。同九行目「なお、」の次に「前記のとおり、」を、同九行目「服部寿男は」の次に「それより前の」を、同七枚目裏一行目「前掲各証拠」の次に「ことに、控訴人は名古屋国税局の税務調査の際、右乙一及び乙二を自らを作成したことを認めていること(乙二六)」を、それぞれ加える。
4 同八枚目表五行目「本訴において」を「本訴においても」と改め、同六行目「以後に」の次に「平成七年五月二九日付準備書面により初めて」を、同八枚目裏六行目「それは」の次に「一旦控訴人が取得した金員についての」を、それぞれ加える。
5 同九枚目表六行目から八行目にかけ「加藤千鶴子及び水野敬二ほか四名から本件土地建物を代金合計五億円で買い受けた。」とあるのを「日本開発企業名義で、水野敬二ほか四名から本件土地を代金二億五〇〇〇万円で、加藤千鶴子から本件建物(借地権付)を代金二億五〇〇〇万円(両者の合計五億円)で買い受けた。」と改め、同八行目「称して、」の次に「日本開発企業の名義で」を加える。
6 同九枚目表一一行目「立ち会った。」の次に「また、翌二八日の売渡の際にも契約に立ち会い、同日、日本開発企業の代理人と称して、アークアーバン株式会社から手付金六〇〇〇万円を受領した。」を加え、同裏二行目の「立ち会っていた。」を「立ち会い、日本開発企業の代理人と称して、アークアーバン株式会社から同社振出の小切手と現金で残金五億五八八〇万円を受領した。」と改める。
7 同九枚目裏六行目「以上の事実が認められる。」を「右認定事実、ことに本件土地建物の各売買契約に控訴人自ら立ち会っていること、売買代金手付金及び残金ともに控訴人が受領していること等と、引用にかかる原判決前記一で認定したとおり、日本開発企業は昭和六〇年頃から既に休業状態であり、控訴人が社印(記名印)及び代表者印を保管し、同社を実質的に管理支配している者であることを併せ考慮すると、本件の各不動産売買の当事者は、実質的にみて日本開発企業ではなく控訴人であると認められる。」と改め、同六行目「これに対し、」以降を改行する。
8 同九枚目裏七行目から八行目にかけ「偽造したものであり、」の次に「さらに控訴人は、平成元年一二月二七日、今村の配下の者から、現金五〇〇〇万円を銀行の保証小切手に振り替えて欲しいとの依頼を受け、その手続をし、右小切手は売主である水野敬二らに対し、手付金として交付されたが、それ以外に、」を加え、同裏九行目冒頭から同一〇枚目表四行目末尾までを次のとおり改める。
「 しかしながら、<1>控訴人は名古屋国税局の税務調査の際、右各売買契約の際に控訴人自ら立ち会ったことを認めていたこと(原審証人塚本稔)、<2>立会業者である中部積和不動産株式会社の金子明及び最終の買主であるアークアーバン株式会社の社員である山本佳代が、控訴人と思われる人物が立ち会っていたと供述していること(乙一六、乙一七)等に照らすと、控訴人の右供述は直ちに採用することができない。」
二 当審における控訴人の主張に対する判断
1 昭和六三年分の雑所得について
今村の依頼により、控訴人が日本開発企業の当座預金口座を金田の事業貸金の入金及び出金に利用させたに過ぎず、日本開発企業及び控訴人には全く所得もない旨、乙一(委任状)及び乙二(領収証)は金田によって虚偽作成されたものである点については、控訴人が原審以来同一の主張をしているものであるが、これに対する判断は、原判決が「事実及び理由」欄第三の一記載のとおり(本判決による訂正を含む)であるから、これを引用する。
また、乙一五(金田の聴取書)の信用性に関し、何億もの高額の現金決済がなされ、その現金をそのまま持ち帰ることは、全くあり得ないこととはいえず、特にいわゆるバブル期に行われた不動産取引については極めて高額な取引でも、しばしば現金決済がなされたことがあることは公知の事実であることからすると、右の点のみから乙一五の信用性を否定することはできない。
2 平成二年分の短期譲渡所得について
控訴人は、今村から、日本開発企業の名を貸してくれるよう依頼され、これに応じ、また、現金五〇〇〇万円を今村の配下の吉戸から銀行の保証小切手に振り替えて欲しいとの依頼を受け、その手続をしただけで、控訴人及び日本開発企業は、何らの所得もない旨の主張をするが、右は控訴人が原審から引き続いて主張しているものであり、これに対する判断は、原判決「事実及び理由」欄第三の二記載のとおり(本判決による訂正を含む)であるから、これを引用する。
また、乙六ないし乙八の各売買契約書及び乙一一の一ないし三の各報酬額支払約定書は、仲介者である中部積和不動産株式会社の社員金子明が勝手に日本開発企業の名を冒用したのである旨の主張(控訴人は、原審においては、今村の配下の者が別の件で今村に貸与した社印及び代表者印を勝手に冒用して偽造した旨主張していたが、これを当審において突如右のように変更した)については、これを認めるに足りる証拠が全く存在しない。
さらに、本件土地建物は、売買により日本開発企業名義で買い受けられ、その翌日に売り渡されているところ、控訴人は、このようなことは一般土地取引ではあり得ない旨主張するが、買い受けた後、日をおかず他へ転売される事例は必ずしも珍しいことではない(同日転売されることさえある)から、控訴人の右主張は採用できない。
第五結論
よって、控訴人の本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野祐一 裁判官 岩田好二 裁判官 山田貞夫)